ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『キュレーターの殺人』M・W・クレイヴン, 東野さやか訳,ハヤカワ・ミステリ文庫, 2020, 2022――前2作を超えた展開と面白さの矛盾

 マイク・クレイヴンの3作目の作品。本書の解説にもあるとおり,第1作・第2作とも極上の謎解きミステリであったが,本作は異なった。

 事件が起こり,少しの手がかりをもとに,謎が解けて新たな(なぜ早川書房では「あらたな」とひらくのだろう?)謎が生まれ,読ませる展開となっているが,謎そのものが弱かった。この展開が多く,新聞あるいは週刊誌で連載されたものなのだろうか。それとも,作者が1作,2作の批判をもとに対抗したものなのか。

 そのような構成にもかかわらず,実をいうと,私には冒頭から中途まで退屈であった。謎の解き明かしがアンフェアではないかと感じたからである。それならば謎の解決など必要ない。

 しかし本書のこれまでの2作を超えた展開が後半3分の1から始まる。思い起こさせるのはジャック・カーリイだ。どのように犯罪を行ったか,なぜ行ったかが独特で面白い。それに加えて,後出しじゃんけん的な印象を残すものの,意外な犯人が示されている。やりすぎではないかと感じるほどだ。

 というわけで,☆☆☆☆である。しかし残念ながら作者の第1作目,第2作目よりは面白さが後退している。年末のランキングが第1作目,第2作目より落ちていることが,それを端的に表していると思う。