ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『円周率の日に先生は死んだ』ヘザー・ヤング、不二淑子訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2020、2023ーー構成のトリックは不発

 タイトルに惹かれたのと、現代ものであるのと、2021年度アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞)候補作なのだからある程度面白い作品だろうと期待して手の取った作品。タイトルは、3月14日=円周率の日に、数学教師のアダム・マークルの焼死体が発見されたというもので、最後まであまり結びつかない。いろいろな制約でアメリカでも現代でミステリを書くのは難しいね。

 二つの主人公視点で書かれていて、一つは焼死体を発見した数学教師と仲が良かった少年の事件前の過去の視点。もう一つは数学教師の同僚の女性教師の事件後の視点で、最後にその二つがつながるという構成。なんでこんな構成をとったのか不思議だったけど、最後まで読むとわかる仕組みになっている。

 キャラクターが繊細でなかなか読ませるし、現代アメリカの一側面を知るには面白いけれど、ミステリ的にはもう一つギミックが欲しかったところ。おそらく筆者はそれに興味がない。興味があればリアリティを犠牲にしても入れ込めたような気がする。というわけで、☆☆☆★というところです。