ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『鹿狩りの季節』エリン・フラナガン、矢島真理訳、ハヤカワ・ミステリ、2021、2023ーー新人賞らしくない

 本作は、新人作家のデビュー作にして、2022年度アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。舞台は1985年のネブラスカ州の田舎町で、アメリカ田舎町がこれで2冊連続だけど、女子高生が失踪したところから始まる。といっても探偵も警察の捜査を描くわけではなく、そこから家族や疑われる者の人間関係や暗い過去が次第に浮かび上がってくるという話で、ルース・レンデルを思い出させ、ミステリというよりも普通小説に近い。

 新人賞といえば小説のうまさよりも、ミステリ的ギミックの優秀さを評価することが多いので、本作は実に新人賞らしくなく、残念である。また、キャラクターの登場のさせ方が、いきなり名前を出して、人物描写がないため、非常に話がわかりづらい。

 とはいうものの、あの告白のシーンはハラハラドキドキさせてくれましたというわけで、☆☆☆★というところです。ミステリ好きであれば切ってしまうだろう人間関係を整理していたエピローグが長く、作者はそういうのが好きなんだろうなあと思わせます。