ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

海外ミステリ

『東西ミステリー ベスト100』文藝春秋編,週刊文春臨時増刊2013年1月4日号,2012――の結果は偏っている!

海外編100冊のうち既読は82冊。国内編102冊のうち既読は62冊。わたしは国内編は江戸川乱歩や横溝正史など古典をあまり読んでいないのです。今頃綾辻氏を読んでいるくらいだしね。 本企画は、投票者のすべての投票内容を掲載していただければベストでした。電…

『熱い十字架』スティーヴン・グリーンリーフ, 黒原敏行訳,ハヤカワ・ミステリ,1993→1995――は片思い小説!

実は小説に駄作というものはないと思う。感動というものは、各々がどのような年齢で、心理状態で、シチュエーションで読んだかに影響される。同じ作品でも、感動しないこともあるし、感動することもある。本作は、わたしの心理状態にぴったりの作品でした。…

『釣りおとした大魚』A・A・フェア, 佐倉潤吾訳,ハヤカワポケットミステリ786,1963→1963――は無言電話から始まる。

バーサ・クール&ドナルド・ラム・シリーズ全27長篇中24作目の作品。原著が出版された年に翻訳がされたようです。当時いかにフェア=ガードナーが人気だったかがわかります。 鉄鋼の輸入会社の重役のアーチャーが、自分の秘書であるマリリン・チュランが郵便…

『東西ミステリーベスト100』文春文庫,1986

また、東西ミステリーベスト100が出版されるらしいですね。前回のアンケートのときは私も高校生でブックガイドとして本当に重宝しました。それで私もあまり多く冊数を読んでいないのですが、あまりベストとか考えたことがないので、この機会に選んでみました…

『シャッター・アイランド』デニス・ルヘイン, 加賀山卓朗訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2003→2006

デニス・ルヘインのサスペンスミステリ。わたしはルヘインは初読。探偵パトリック&アンジーシリーズは書評を読んで自分向きではないと思ったのですが、それでも最近第1作目を読み始めたところ、薄く細い書体のため見づらく最初の数頁で断念しました。目の調…

『暗い鏡の中に』ヘレン・マクロイ, 駒月雅子訳,創元推理文庫,1950→2011

英米黄金期以降に活躍したサスペンスミステリ作家ヘレン・マクロイの全31作中第11作目の作品。ですから決して初期作ではありませんね。本作は、早川書房から1955年にポケミスで、1977年に文庫化されたものを復刊したもの。長らくマクロイの最高傑作で、名作…

『消えた装身具』コリン・デクスター, 大庭忠男訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ, 1991→1992

コリン・デクスター9作目の作品。訳者あとがきによると、コリン・デクスター自身がテレビ映画用に書いたオリジナルストーリーをもとに小説にリライトしたものらしい。かなり内容を改変しているとしているけれど。読み終わった後、そのように言われてみれば、…

『爬虫類館の殺人』カーター・ディクスン, 中村能三訳,創元推理文庫,1944→1960

カー全72長篇中41作目の作品。カーの作品リストは、キャラクターシリーズ毎であったり、ペンネームごとであったり、シリーズを無視して発行順に並べたものがどこを検索してもありません。文庫のソデも翻訳順で、どれが古く新しい作品なのかさっぱりわからな…

『ミレニアム2 火と戯れる女』スティーグ・ラーソン, ヘレンハルメ美穂, 山田美明訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2005→2011

世界的ベストセラーになった「ミレニアム」シリーズ第2作。第1作が孤島ものを横溝正史が現代風に書いたプロットでしたが、本作では一転、謎が謎を呼ぶ途中で読者に本を置かせないスリラーになっていました(つまり謎解きはない)。 リスベットの後見人のピュ…

『撃たれると痛い』パーネル・ホール, 田中一江訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,1991→1995.

私立探偵スタンリー・ヘイスティングズ・シリーズ第7作目の作品。スタンリーはひかえめ探偵と呼ばれていますが、俳優を目指しているけれど売れないため、自分ができ時間が融通できる探偵という仕事をパートタイムで行っているという印象。 メリッサ・フォー…

『コフィン・ダンサー』ジェフリー・ディーヴァー, 池田真紀子訳,文春文庫,1998→2004.

ジェフリー・ディーヴァー全31作中第14作目の作品。リンカーン・ライム・シリーズ第2作目の作品。ディーヴァーは最初ハヤカワ文庫でリーガルサスペンス作家として少し評価されて、映画化とともに文春文庫に移動した作家で、改めて作品数を数えてみると、年1…

『ブリリアント・アイ』ローレン・D・エスルマン, 村田勝彦訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ1475,1986→1989.

私立探偵エイモス・ウォーカー・シリーズ第6作目の作品。本書の訳者あとがきによると、アメリカ本国ではロバート・B・パーカーが「クラシックな私立探偵」ぶりにあると言及するぐらい人気があるらしい。しかし日本ではあまり翻訳されなかったということは、…

『猟犬クラブ』ピーター・ラヴゼイ, 山本やよい訳,ハヤカワ文庫,1996→2001.

ピーター・ダイヤモンド警視シリーズ第4作目の作品。なるほど巻末解説の千街氏も引用している、ハードカバー時のオビのコピー「ミステリを愛するすべての読者に捧げる、ダイヤモンド警視シリーズ最大の問題作!」どおりの作品でした。 警察にバースで美術品…

『特捜部Q――檻の中の女,ユッシ・エーズラ・オールスン, 吉田奈保子訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2008→2011.

本作はデンマークの作家の現代警察小説。内容は、テレビドラマ「相棒」+マンガ「オールドボーイ」。しかもキャラは立ちっぱなし。なんというか、キャラ立ちの海外ミステリしか翻訳されていないような気がする。 作者は、先日のエド・マクベインの87分署シリ…

『熱波』エド・マクベイン, 井上一夫訳,ハヤカワミステリ文庫,1981→1990

87分署シリーズの第35作目の作品。今調べたら全シリーズ53作あるのかあ。まだまだ先まであるのだなあ。第1作目を読んだのは高校生の時で、その時はあまりのリーダビリティの高さにポンポン読んでいたけど、いつしかマクベインの美文調がうっとうしく感じてし…

『カラスは数をかぞえない』A・A・フェア, 田中小実昌訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1946→1962.

バーサ・クール&ドナルド・ラム・シリーズ全29作中10番目の作品。この前に読んだブロックの『皆殺し』は面白いことは面白いけど、期待していた展開ではなかったので、欲求不満解消のために、久々にフェアを手に取った次第。それにしても、A・A・フェアと検…

『甦った女』レジナルド・ヒル, 嵯峨静江訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1992→1997.

訳者あとがきによると、レジナルド・ヒル20作目かつダルジール警視シリーズ12作目の作品。本作は27年前のクリスティの小説のような殺人事件の再捜査をするところから始まります。私は、ここのところ続いて昔の事件の再捜査というミステリを手に取っているこ…

『皆殺し』ローレンス・ブロック, 田口俊樹訳,二見文庫,1998→2006

マット・スタガー・シリーズの第14作目の作品。だんだん残りが少なくなってきました。 前作『処刑宣告』までは、ハードボイルド+謎解きミステリの融合をはかるというか、ハードボイルドを物語として成り立たせるために謎解き要素を取り込んだように感じまし…

『シティ・オブ・ボーンズ』マイクル・コナリー, 古沢嘉通訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2002→2005

マイクル・コナリーの刑事ハリー・ボッシュ・シリーズ第8作目の作品。20年前という過去の殺人事件を捜査します。 散歩中の犬が丘陵の森の奥から戻ってくると人骨を加えていた。その骨を検査してみると20年前の10歳の子どものものだった。ボッシュは丘の上で…

『冬の灯台が語るとき』ヨハン・テオリン, 三角和代訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2008→2012

作者はスウェーデンのジャーナリスト。本書はデビュー作『黄昏に眠る秋』に続く第2作。表4に「スウェーデン推理作家アカデミー賞長篇賞、英国摺作家協会賞インターナショナル・ダカー賞、「ガラスの鍵」賞の三冠に輝く傑作ミステリ」と紹介されていること、…

『五匹の子豚』アガサ・クリスティー, 山本やよい訳,ハヤカワ文庫,1942→2010

クリスティ32作目の作品。作品数が多いから初期〜中期ですかね。ポアロものです。16年前に父を毒殺した容疑で逮捕され、獄中で自殺した母は無実であるとその娘がポアロに訴えるところから始まります。 画家であるエイミアス・クレイルは、自宅屋敷から徒歩4…

『風に吹かれて』パトリシア・ハイスミス, 小尾芙佐,扶桑社ミステリー,1992

卓越したサスペンスミステリ作家のパトリシア・ハイスミスの短編集。本書は、以下に示すように、おそらく代表作といえるほどのものは掲載されていないのですが、本書の解説をしている馬場啓一氏が指摘しているように、さまざまなシチュエーションとストーリ…

『死刑囚』アンデシュルー・スルンド, ベリエ・ヘルストレム, ヘレンハルメ美穂訳,RHブックス・プラス,2006→2011

スウェーデン・ストックホルムを舞台にしたミステリ。警察小説でもなく、サスペンスでもありません。ミステリというよりも普通小説に近いのですが、最後まで読めば謎を主体としたミステリとなっています。この作品はこの作者の初読です。 ストックホルムの傷…

『オックスフォード運河の殺人』コリン・デクスター, 大庭忠男訳, ハヤカワ・ミステリ文庫, 1989→1996

モース警部主任シリーズ第8作目の作品で、英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞作。不摂生ため目眩がして倒れた(糖尿病なのか?)ため、病院に入院中のモースが一八〇〇年代の殺人事件を推理するという『時の娘』風の安楽椅子もの。 入院中のモースは…

『ローレンス・ブロックのベストセラー作家入門』ローレンス・ブロック, 田口俊樹, 加賀山卓朗訳,原書房,1981→2003.

タイトルは、『ベストセラー作家入門』といい、何となく下世話なものを想像しがちですが、内容はそのようなものでなく、『ライダーズ・ダイジェスト』(アメリカの作家志望者向けの雑誌なのでしょうか?)に連載されたものであるように、作家志望者がプロ作…

『ローラ・フェイとの最後の会話』トマス・H・クック, 村松潔訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2010→2011.

クックの25作目の作品。ストーリーの全編にわたって、主人公の歴史学者のルークとローラ・フェイという子ども時代の知り合いの女性との会話で展開されます。 ルークの父は、幼少の頃、自宅で銃で撃たれて殺された。その原因は、その頃、ルークの父と付き合っ…

『早すぎる埋葬』ジョゼフ・ハンセン, 菊地よしみ訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1987→1989

ホモセクシュアルの探偵デイブ・ブランドステッター・シリーズ全12作中の第9作目の作品。このシリーズ作品は、読んでいるときは俯瞰から細部まで流れるような風景と心理描写、デイブの抑制されたプロフェッショナルな行動、読者とフェアに情報提供する作者の…

『読者よ欺かるるなかれ』カーター・ディクスン, 宇野利泰訳,ハヤカワ文庫,1939→2002.

本作は、デビュー作の『夜歩く』の出版が1930年ですから、カーの初期作の範疇になるでしょう。ヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)シリーズです。 病理学者のサーンダーズ博士は、友人の弁護士のチェイスに、女性作家マイナ・コンスタブル夫婦が開催する読…

『天外消失』クレイトン・ロースン, フレドリック・ブラウン, ジョン・D・マクドナルド, ジョルジュ・シムノン, 他, 早川書房編集部・編、ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2008

私は、本書の中の数編はすでに読んだことがあります。それは、本書の原本である『世界ミステリ全集』の最終巻『37の短編』です。高校生の頃、海外ミステリを意識的に基礎的な名作・傑作を読み進めていたのですが、高校から自宅まで遠回りするとある図書館で…

『二流小説家』デイヴィッド・ゴードン, 青木千鶴訳,早川書房,2010→2011

表4の本書紹介文には、「ポケミスの新時代を担う技巧派作家の登場! アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞候補作」とありますが、同じポケミスの『記者魂』にかっさられてしまいましたね。でも、これはいいよ。本当に。私の好み。デイヴィッド・ハンドラー…