ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

海外ミステリ

『ミステリマガジン 2014年 01月号』2013/『このミステリーがすごい! 2014年版』『このミステリーがすごい!』編集部編,宝島社,2013

毎年恒例になったらしい2013年発行のミステリ・ベスト・ランキング発表号です。 海外篇ベスト20のうち既読は4作ですが、そのうちベスト3を占めていました。といっても、どれもその作家の最高傑作とはいえず少しがっかりしたのですが……。 国内篇はベスト20の…

『イン・ザ・ブラッド』ジャック・カーリイ, 三角和代訳,文春文庫,2009,2013

ジャック・カーリイの精神病理・社会病理捜査班(PSIT)シリーズ第5作目の作品。私はカーリイの中で『百番目の男』をベストとするとともに、オールタイム的にも高く評価しています。未だに犯罪者の動機のユニークさ+理詰め的な高さでは『百番目』以上の作品…

『白い僧院の殺人』カーター・ディクスン, 厚木淳訳,創元推理文庫,1934,1977

ヘンリー・メリヴェール卿のシリーズの第2作目の作品。処女作の『夜歩く』が1932年の作品ですから、カーの初期作といえます。カーの未読作は結構あり本棚に積ん読されているのですが、どれもが小さい活字であるため、なかなか手に取りにくくなっています。先…

「特集 ポケミス60周年記念号」『ミステリマガジン 2013年 11月号』2013

特集で71名にポケミスベスト3を挙げるアンケートを行い発表されています。口絵にそれらを集計した(らしい)ベスト10が並べられているのですが、その中で私が既読なのは5作品。しかしそれも文庫がほとんどで、ポケミスで読んだのは1作品のみでした。残り5作…

『ものはためし』A・A・フェア, 鷺村達也訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1962,1962

バーサ・クール&ドナルド・ラム・シリーズ全29作中23作目の作品。なんと原著が発行されたのと同じ年に翻訳が発行されています。現在ですと『ミステリガール』が映画に合わせて本国で発行前に日本で先に発行されていましたっけ。それだけ人気だったのでしょ…

『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン, 柳沢由実子訳,東京創元社,2001,2013

『湿地』で本邦初紹介されたインドリダソンの『湿地』に続く作品でシリーズ4作目のCWAゴールドダガー賞/ガラスの鍵賞同時受賞作品。原著は2001年発行ですから10年以上前ですね。もし当時翻訳されていたのでしたら、サイコミステリに分類されて、あまり評価さ…

『冬のフロスト』R・D・ウィングフィールド, 芹澤恵訳,創元推理文庫,1999,2013

仕事が忙しく小説もあまり読む気力がなく1日30頁と決めて2週間かかってようやく読み終えることができました。午前中は自宅でゲラのチェック,昼からは出社し諸処の作業と連絡をして,夜は「半澤直樹」に興奮し「有頂天家族」に泣かされ(本当に久しぶりにア…

『家蝿とカナリア』ヘレン・マクロイ, 深町真理子訳,創元推理文庫,1942,2002

6月初旬から仕事が立て込んできて小説を読む時間が取れなくなってきました。読んでも通勤時間の20分ぐらいで疲れて寝てしまうこともしばしば。そのため薄い短編集を読みたいのですが、どの出版社でも短編集だと分厚くしてしまいます。数多く収録したいのは分…

『ドラゴンの歯』エラリー・クイーン, 宇野利泰訳,創元推理文庫,1939,1965

謎解きミステリを読みたい気分になって手に取った一冊。クイーンは国名シリーズのすべてを読んでいないのですが、それがどれだか分からなくなってしまいました。本書は、『災厄の町』の前作でクイーン中期の作品。ボー・ランメルというクイーン警視の友人の…

『チェイシング・リリー』マイクル・コナリー, 古沢嘉通, 三角和代訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2002,2007

本作はコナリーのシリーズものではない、単発もの。コナリーには当初あまりいい印象をもっていませんでした。というのは、やはり初期作がエルロイの影響を受けているというよりもエルロイの劣化版なのかなと判断していたからです。まあ、最近は読むことがで…

『遮断地区』ミネット・ウォルターズ, 成川裕子,創元推理文庫,2001,2013

ミネット・ウォルターズの2001年の第7作目の作品。ウォルターズの作品は初期作を2〜3作読んでいるような気がしますが、内容は全く憶えていません。「結構、普通のサイコサスペンスミステリだなあ」という印象が残っています。本書は書評などで評判がよかった…

『ミステリガール』デイヴィッド・ゴードン, 青木千鶴訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2013

『二流小説家』の作者の第2作目の作品。『二流小説家』はライトノベル+ソフトボイルドのノリがあって非常に愉しい作品でした。日本で異常に受けてしまったようですけど。まあ、私も同じテイストを求めて新刊で購入したわけですが、読んでみて驚きましたよ。…

『3,1,2とノックせよ』フレドリック・ブラウン, 森本清水訳,創元推理文庫,1959,1960

巻末の解説によると、ブラウン18冊目の推理小説。原著発行の1959年の翌年の1960年に翻訳出版されているということは、当時いかに人気があったかが分かります。原著が出版されたら自動的に翻訳していたのでしょう。タイトルもいかにもヒッチコックの映画のよ…

『リガの犬たち』ヘニング・マンケル, 柳沢由実子訳,創元推理文庫,1992,2003

ヘニング・マンケルの刑事ヴァランダー・シリーズ第2作目の作品。リガとはラトヴィアの首都のこと。ラトヴィアといえば、先日、サッカーの親善試合を行い日本が敗北した国で、ワールドカップ予選で好調な国であるという認識しかなかったのですが、バルト三国…

『斧でもくらえ』A・A・フェア, 砧一郎訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,1944,1987

本書には解説がなく「A・A・フェア著作リスト」が掲載されており、それによると本書はドラルド・ラム&バーサ・クール・シリーズ全29作(そんなにあるのかよ!)中、9作目の作品。読む前は、比較的初期だから悪い作品ではないのだろうと予想。 太平洋戦争戦線…

『ある殺意』P・D・ジェイムズ, 山室まりや訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,1963,1977

P・D・ジェイムズの第2作目の作品。以前読んだ『わが職業は死』http://d.hatena.ne.jp/hoshi-itsu/20110822 では厳しいことを書いていますが、時を経るごとに、「あんなご都合主義の複雑なミステリはなかったなあ」とやけに面白い記憶だけが残ってきたので、…

『キャサリン・カーの終わりなき旅』トマス・H・クック, 駒月雅子訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2009,2013

クックの第24作目の作品。実は私はクックの筆致が苦手です。描写が薄ぼんやりしていて雑踏の中を歩いているかのように感じます。それでも手に取ってしまうのは、一瞬風景がグルリと回転する瞬間を見せてくれることがあるからです。本書もそうならばよいので…

『六人目の少女』ドナート・カッリージ, 清水由貴子訳, ハヤカワ・ポケット・ミステリ, 2009, 2013

2009年刊行のイタリア産サイコミステリ。ヨーロッパ各国で数々の賞を受けるなど評価を受け、ベストセラーになり、23カ国で刊行されたらしい。作者のドナート・カッリージは映画・テレビなどの脚本家になり、本書で作家としてデビューを果たしたとのこと。翻…

『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ, 酒寄進一, 東京創元社, 2009, 2011

一昨年に各ミステリベストアンケートで上位に挙げられていたドイツの短編集。「犯罪」にまつわるスケッチともいった作風で、ミステリというよりも文学に近い。アゴタ・クリストフや村上春樹の初期短編のテイストに似ているので、それらが好きな人にとっては…

『服従の絆――デイヴ・ブランドステッター・シリーズ』ジョゼフ・ハンセン, 菊地よしみ訳, ハヤカワ・ポケット・ミステリ, 1988, 1991.

ホモセクシュアルの保険調査員デイヴ・ブランドステッターシリーズ全12作中第10作目の作品。いよいよ残り少なくなってきました。デイブは保険調査員を体力の衰えなどから引退しようとしていたところから始まります。 多くの老朽船があるマリーナに船上生活…

『殺人者の顔』ヘニング・マンケル,柳沢由実子訳,創元推理文庫,1991→2001

うわっ、やっちまったよ。以下は、ほとんどネタバレなので未読の方は2つめのパラグラフまでで、無色に反転されてた文書の後は読まない方がいいですよ。 クルト・ヴァランダー警部シリーズはせっかく文庫で出版されているのだから、最初から読んでいきたいと…

『喪失』モー・ヘイダー, 北野寿美枝訳,ハヤカワ・ポケット・ミステリ,2010→2012

2012年度のアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞受賞作。作者のモー・ヘイダーのジャック・キャフェリー警部ものの第5作目の作品。 冒頭のカージャック事件から少女誘拐事件に至るまでの展開は面白いのですが、語り口は重厚でじっくりしており悠然と進みます。し…

『ナイルに死す』アガサ・クリスティー, 加島祥造訳,ハヤカワ文庫―クリスティー文庫,1937→2003

質の良い謎解きミステリを読みたいと思うと、ローテーションでクリスティの出番が巡ってくるのはしょうがないですね。改めてクリスティやクイーンを読むと、ほかの作家を評価するとき、思わずダブルスタンダードを使ってしまうくらい、レベルの違いを感じま…

『現代短篇の名手たち5 探偵学入門』マイクル・Z・リューイン, 田口俊樹・他訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2009

早川書房の「現代短篇の名手たち」シリーズの一冊。このような企画は大歓迎です。時間的や精神的に短篇しか読むことができないときがあるので、短編集は定期的に出版してほしいものです。それも「総頁数350頁以内」だと嬉しいです。出版社(編集者)は短篇だ…

『エンプティー・チェア』ジェフリー・ディーヴァー, 池田真紀子訳,文春文庫,2000→2006

リンカーン・ライム・シリーズ第3作目の作品。タイトルのエンプティ・チェアとは、『クライエントの心の中の分身・自分自身・重要な人物・事物・身体の一部・架空のものと対話の必要が生じたときに、クライエントの座るホット・シートの前にある空の椅子にそ…

今年のベストのピックアップ!

今年、印象に残った作品は以下の通り。 『カラスの親指 by rule of CROW’s thumb』道尾秀介,講談社文庫,2008→2011 『湿地』アーナルデュル・インドリダソン, 柳沢由実子訳,東京創元社,2000→2012 『熱い十字架』スティーヴン・グリーンリーフ, 黒原敏行訳…

『フランキー・マシーンの冬』ドン・ウィンズロウ, 東江一紀訳,角川文庫,2006→2010

『犬の力』で傑作をものにしたウィンズロウの10作目の作品。『犬の力』よりは軽いタッチになっていますが、だらだらな文体のアメリカのベストセラー作品と異なり、普通と比較すればシンプルな文章、重いタッチでした。 62歳の老殺し屋フランキー・マシーンは…

『湿地』アーナルデュル・インドリダソン, 柳沢由実子訳,東京創元社,2000→2012

アイスランドを舞台にした警察小説シリーズ翻訳第1作目にして『ハヤカワミステリマガジン』版ベスト10の第1位の作品。まあそれだけの作品でした。本書のようなしっかりした犯罪者像を提示されると、サイコミステリが作者の安易な逃げにしか感じなくなります。…

『隣の家の少女』ジャック・ケッチャム, 金子浩訳,扶桑社ミステリー,1989→1998

スティーヴン・キングが絶賛したサスペンス・ミステリ。サイコパスものの先駆けといってよいのでしょうか? スーパーナチュラル的な要素はなく、異常なエピソードがじわじわと重ねられ、読者の心が締めつけられます。 主人公の男の隣の家に両親を交通事故で…

「特集 ミステリが読みたい! 2013年版」『ミステリマガジン 2013年 01月号』2012――は試行錯誤中!

早川書房の年間ベストミステリランキング本は、昨年までムックで出版されていましたが、今年から『ミステリマガジン』の1月号の特集となったようです。ムック以前に戻ったということですが、価格は千円台後半ではなく、いつもの『ミステリマガジン』と同じ9…