ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『あなたに不利な証拠として』

最近,海外ミステリを読んでいないなあと思っていたところ,短編集だし,書評などの評判もよいので,新刊で購入。
女性警官を主人公にした短編が10篇収録されています。
この小説の魅力は,今までミステリ小説であまり描写されなかった「におい」といっていいのか分かりませんが,そのようなものが描写されていることです。例えば,勤務を終えて帰宅した女性警官が,自分の全身を撫でまわしながら,次のように考えます。
「指先が読めない地図を探り,手や腕の小さな赤いツタのような新しい引っかき傷に触れる。手錠が食い込んでできた擦り傷に初めて気づく。脇腹には理由のわからない新しいみみずばれができている。銃があたる腰の部分に居座っている打ち身は,人に黒ずんだ紫色になっていく。…」(p20-21) この後引き続き7行にわたって描写されます。
海外ミステリには,執拗な細かい描写をする小説が少なくありませんが,本書においては,痛みやにおい,色などについて,主人公の心の状態を示すものとして,鮮やかに描写されているのです。
この点が好きな方々にはたまらないのでしょう。といっても,ぼくには,最初のうちは新鮮だなあと感じましたが,後半になってくると「ねちっこいなあ」とちょっとうんざりもしましたね。
また読んでいる途中,「あれ,このテイストは昔読んだ小説で味わったことあるなあ」と感じて,しばらく「どの小説だっけ」と思い出しました。それは片岡義男の『ミス・リグビーの幸福』でした。それを読んだのは10年以上前のことですので,どこがどう具体的に似ているかと訊かれると,はっきり答えられないのですが,たぶん事件の一部を書いているにもかかわらず,事件全体が感じられるような書き方をしているところなんですかね。どうなんでしょう?