ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

アンソニー・ホロヴィッツ,山田蘭 (訳)『ヨルガオ殺人事件』創元推理文庫,2020,2021ーー作中作が結構愉しめる

 『カササギ殺人事件』の続編で,作中作のある謎解きミステリ。非常に長かった…。これだけの長さになると仕事しながらだと疲れます。しかも年々記憶力が減退していて,『カササギ殺人事件』のことは少しも覚えていない…。自分のレビューを読んでも全く思い出せません…。

 探偵役は元編集者でクレタ島でホテル経営をしている女性のスーザン・ラインランド。何気ないけど,このような普通に働いている女性が探偵役というのも珍しいのではないでしょうか。探偵役として,事件に関係させるのが難しいけど,一般の読者をつかまえるのなら,よい設定だと思います。映像化しやすいですしね。そういえば,このシリーズは映像化されていないのでしょうか。解説に書いてあったと思いますが。

 また,スーザンが元編集者というのも,向こうの出版事情が少しうかがわれて愉しい。本作では,小説の編集者を辞めてホテル経営者になったけど,自分が担当した蜜照り小説のかかわりから,自分が元に勤めていた出版社にコンタクトをとって殺人事件の解決を図るのだけど,最後にはフリーランス編集として1作品を引き受けるところで終わっています。

 イギリスの高級ホテルの経営者夫妻がそのホテルで起こった8年前の殺人事件を調査してほしいという依頼をスーザンは受けた。その理由は,経営者夫妻の娘が,ミステリ作家のアラン・コンウェイの作品の『愚行の代償』を読んだのち失踪したという。『愚者の代償』が失踪のカギだと思った夫妻は,アランは亡くなっていたため,その編集担当だったスーザンを訪ねた(考えてみれば不自然な設定な気もする)。依頼料が大金だったのでスーザンは引き受けたが,関係者に会って話を聞いて,小説を読んでみると,犯人がわかった。

 その作中作の『愚者の代償』ですが,若き頃に評判をとって,ヒッチコックの最新映画の主演のオファーを受け,またホテルのオーナーになった女優が殺されるというもので,これだけで結構面白く,意外な犯人という意味でも珍しいのではないかと思います。

 失踪事件の真相は,あまり意外性はありませんが,作中作とのかかわりが読者をひっかけるもので,少し肩透かしをくらうものの,やられた感が残るというもの。ただ,あまりの情報量に私が疲れてしまっていたからだと思います(ホロヴィッツの作品はそのんなものばかりだ)。それでも,他の作品より優れているから困りもので,☆☆☆★というところです。