ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『滅茶苦茶』染井為人、講談社、2023ーー確かに滅茶苦茶だけど説得力あるね

 初めての著者で、どの書評家も忘れてしまったけど、評判がよいこと、著者が横溝賞をとっていること、適度な長さの現代ミステリを読んでみたかったことなどから手に取りました。

 時は2020年の最も最初のコロナ禍で緊急事態宣言でステイホームの真っ最中。一人は仕事は順調かつ婚活中の30代後半の女性がマッチングアプリで出会った男にのめり込み、また群馬のコロナ休校中で自宅勉強中の進学校の男子高校生が不良に誘われ喧嘩に巻き込まれ、ギリギリの収入でしのいでいるラブホ経営者の家族持ちの中年男性が持続給付金を受けられなくなったことから不正給付金需給の誘いを受けていく、というところから始まる。

 作者はネットや新聞記事であるような典型的な人物像を提示することで、読者に自分にも起こることではないかと感じさせ、そこからどんどん最悪の犯罪の展開に陥るさまは非常にうまい。惜しむらくは、折原一ぐらいにもう少し描写があってもよいのではないか、とも思うけど、売れるエンタメということを考えたら妥当なところか。

 この作品はエンディングがタイトルに収れんしていく感じがよかったね、というわけで☆☆☆★といったところです。普段小説を読んでいない人に勧められる作品かな。