ミステリを読む 専門書を語るブログ

「ほしいつ」です。専門書ときどき一般書の編集者で年間4~6冊出版しています。しかしここは海外ミステリが中心のブログです。

『#真相をお話しします』結城真一郎、新潮社、2022ーー新しい酒を新しい皮袋に盛る

新刊発行当初、確かネット上で評判がよかったとして、池袋のジュンク堂書店の1Fで全面展開の販売がされていた作品。4つの短編が収められている短編集で、ネタは古き杯に新しい酒を注いだような感じで現代的でキレキレで、ある程度分量がある短編にもかかわら…

『名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件』白井智之、新潮社、2022ーー伊坂幸太郎系あるいは舞城王太郎系

本作も昨年のミステリランキングで評判がよかった一作。作者の白井氏はまったく知らなかったが、ウィキペディアによると1990年生まれだから若干33歳でめちゃくちゃ若い。経歴をたどるとかなり過去作もかなりの評価を受けています。 タイトルから新本格系かと…

『まんが原作・原論:理論と実践』大塚英志、星海社新書、2023

大塚氏のクリエイターブックスについてはネタがもうないのかなと思っていたが、まんが原作の方法という大きいテーマがあったわけです。とはいっても、普通の漫画原作作成方法ではなく、書名に「原論」とついているように、まんが原作の定義から解説されてい…

『爆弾』呉勝浩、講談社、2022ーー現代風のリアリティあるテロリスト・スリラー

昨年、ベストミステリランキングを軒並み1位をとった作品。都内に爆弾をしかけたテロリスト・スリラー。Amazonではノンストップミステリと評価されていたので久々に味わいたいと思って購入したけど、結局は自分の忙しさのため断続的な読書になってしまいまし…

『魔王の島』ジェローム・ルブリ 、坂田雪子監訳、青木智美訳、文春文庫、2019、2022ーーフランスで複数の賞を得るなど評判を得たサイコ・サスペンス・ミステリ

フランスで複数の賞を得るなど評判を得たサイコ・サスペンス・ミステリ。ジェローム・ルブリの第3作めの作品。 新聞記者のサンドリーヌ・ヴォードリエは、祖母の訃報を受けて、祖母が住んでいた孤島に渡った。その孤島に着くと、戻る交通路は10日後となると…

『殺しへのライン』アンソニー・ホロヴィッツ、山田蘭、創元推理文庫、2021、2022ーーリゾート地での殺人

ホーソーン&ホロヴィッツシリーズの第4作目の作品。読むのに時間がかかってしまいました。どうも読書時間を確保するのが難しい。 ホーソーンとホロヴィッツは、新作の出版のプロモーションとして、イギリスとフランスの間にあるオルダニー島で行われる文芸フ…

『われら闇より天を見る』クリス・ウィタカー,鈴木恵(訳),早川書房,2020,2022ーーミステリではなく『はみだしっ子』に似ている

本書は,英国推理作家協会賞最優秀長篇賞で書評の評判がよく手にとったが失敗した。各種ランキングで評価を受けているから,万人に受ける作品化と勘違いしていた。 ミステリ好きには2種類いて,これは「あちら側」の人が好きなミステリだった。だいたいこれ…

『キュレーターの殺人』M・W・クレイヴン, 東野さやか訳,ハヤカワ・ミステリ文庫, 2020, 2022――前2作を超えた展開と面白さの矛盾

マイク・クレイヴンの3作目の作品。本書の解説にもあるとおり,第1作・第2作とも極上の謎解きミステリであったが,本作は異なった。 事件が起こり,少しの手がかりをもとに,謎が解けて新たな(なぜ早川書房では「あらたな」とひらくのだろう?)謎が生まれ…

『爆発物処理班の遭遇したスピン』佐藤 究,講談社,2022ーー現代ミステリ短編の傑作集

『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞,第165回直木賞を受賞した作家の8本の短編を収めた短編集。才能ある作家には一冊傑作短編集があるけれど,本書はめったにない,その一冊。8本すべてがバラエティに富んでいて愉しめる。☆☆☆☆☆というところです。ちょ…

『かくして彼女は宴で語る—明治耽美派推理帖』宮内悠介,幻冬舎,2022ーー明治期の黒後家蜘蛛の会

宮内悠介氏の謎解きミステリで評判がよいという情報以外まったくもってなかったなか読んだら,明治時代の作家,詩人などの文化人の集まりの会が舞台で,そこで出された謎を舞台の西洋料理店の女中があっけなく解くという黒後家蜘蛛の会の日本版で驚いた。 し…

『コミカライズ魂―『仮面ライダー』に始まる児童マンガ史』すがやみつる,河出新書056,2022

すがやみつる氏のコミカライズに絞った自分史といった感じで,『仮面ライダー青春譜』と同様に1970年~1980年台のマンガ事情の一部がわかったうえで,非常に面白い。 私にとって,すがや氏といえば,ずーっと追ってきた漫画家ではなく,まず『ゲームセンター…

『方舟』夕木春央,講談社,2022ー密室内の殺人

書店でのジャケ買いの謎解きミステリ。作者もまったく知りませんでした。山奥の大きな船型のホテルのような地下建築に宿泊した9名だが,突然の地震によって,出口が狭まり,地下に閉じこまれてしまった。そのうえ,地下水が徐々に増えて,地下建築の部屋その…

『ポピーのためにできること』ジャニス・ハレット,山田 蘭訳,集英社文庫,2022

イギリスの劇作家,脚本家のデビュー作。アマゾンによると「サンデー・タイムズ紙が選ぶ、2021年ベスト・ミステリー!」に選ばれたとのこと。 本文がイギリスの田舎の劇団とその関係者のメールのみで語られるミステリ。昔でいえば本文が手紙のみのようなもの…

『此の世の果ての殺人』荒木あかね,講談社,2022ーー乱歩賞も変わった

今年度の江戸川乱歩賞受賞作。23歳の新人であるということ,選評で最終選考作5作すべてが特殊設定ミステリであり,その中で満場一致だったということ,また乱歩賞だから長さに制限があり読むのに長時間かからないだろうということで,手に取りました。 あと2…

『嫌われた監督―落合博満は中日をどう変えたのか』鈴木忠平,文藝春秋,2021

本書は久々にスポーツノンフィクションで評判を得た作品。インターネット普及以降,スポーツノンフィクションの傑作はなかなか現れなくなった。それは,スポーツノンフィクションそのものに,悪く言えば暴露的なものがあるからで,インターネットに小出しに…

『テスカトリポカ』佐藤 究,KADOKAWA,2021――作風でいえば諸星大二郎+飯嶋和一

本書は,作風でいえば諸星大二郎+飯嶋和一というような夢の取り合わせで驚きました。昨年のミステリランキングで上位,直木賞を受賞したこともむべなるかな。作者が乱歩賞作家であったことも興味をもちました。 アステカ古代文明+メキシコ麻薬戦争+臓器売…

アンソニー・ホロヴィッツ,山田蘭 (訳)『ヨルガオ殺人事件』創元推理文庫,2020,2021ーー作中作が結構愉しめる

『カササギ殺人事件』の続編で,作中作のある謎解きミステリ。非常に長かった…。これだけの長さになると仕事しながらだと疲れます。しかも年々記憶力が減退していて,『カササギ殺人事件』のことは少しも覚えていない…。自分のレビューを読んでも全く思い出…

『兇人邸の殺人』今村昌弘,東京創元社,2021ーーうーん,時代は変わった

昨年のベストランキングで上位に挙げられていたので,この著者の第1作目『屍人荘の殺人』以来に読みました。まさか,第1作目からシリーズになっていると思いませんでしたが,読んでみて,なるほど,特殊設定ミステリとしての世界観が同じだからシリーズにし…

『印』アーナルデュル・インドリダソン,柳沢由実子訳,東京創元社,2007,2022

エーレンデュル捜査官シリーズ第6作目の作品。なかなか良い。私はこのシリーズがロス・マクドナルドの雰囲気をまとっていて,非常に好みである。ロスマクの魅力は複雑なプロットが解かれていく様だと思っていたけど,インドリダソンを読むとユーモアのない世…

ヘニング・マンケル,柳沢由実子(訳)『 五番目の女』創元推理文庫,1996,2010

ヘニング・マンケルのヴァランダー警部シリーズの第6作目の作品。とにかく読むのに時間がかかりました。年齢を重ねたうえに,消化すべきコンテンツが多くなった現在,このような長大な小説を読む時間は,ますます少なくなります。同じ時間を消費するなら映像…

『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成,KADOKAWA,2021ーーオリジナリティあふれる小説

昨年のミステリベストランキングで上位にきていたミステリ。友人が一気に読んでいたので借りました。 ある大手の有名なIT企業の新卒の最終面接に6名の大学生が残った。そこで集団ディスカッションをして内定にふさわしい人に投票して,その投票数が多かった…

『暗闇の囁き〈新装改訂版〉』綾辻行人,講談社文庫,1989,2021

綾辻氏の第7作目の作品。一応「囁きシリーズ」のように位置づけられているけれど,内容に関連性がない独立した作品で,謎解きミステリではなく,サスペンスミステリというか奇妙な話テイストの作品でスパスパ読める。短編のような感じすらする。☆☆☆★というと…

『荘園ー墾田永年私財法から応仁の乱まで』伊藤俊一,中公新書,2021

最近ベストセラーになっている歴史に関する新書。僕はあまり歴史ものを読まないけど,荘園というテーマは学校の歴史で学んだものの,実際はどういうものだったかわからず,荘園が武士を生んだという流れはどういうものだったか,興味をもって読んだ。本書は…

『黒牢城』米澤穂信,KADOKAWA,2021

久しぶりのブログです。最近年齢のためか,仕事で疲れているためか,まったく小説を読む気力が失われてしまいました。新刊をレビューし続ける書評家はすごいと思う。小説を読むのも体力だから,それを失ってしまう時期が来るはずなのに。 さて,本作は米澤氏…

『その裁きは死』アンソニー・ホロヴィッツ,山田蘭訳,創元推理文庫,2018,2020ーークリスティのハイブリッド版

ホロヴィッツのホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズの第2作目の作品。以前も書いたけどホロヴィッツのミステリは非常に細かくて目が離せないのだけど,つい目を離してしまって,内容がわからなくなってしまって,最後は不完全燃焼になってしまいます。 本書…

『台北プライベートアイ』紀 蔚然, 舩山むつみ訳,文藝春秋,2011,2021

台湾が舞台の私立探偵小説。作者は台湾を代表する劇作家で,本書は小説のデビュー作。緊密なハードボイルドミステリというよりも,『疑り屋のトマス』やパーネル・ホールのスタンリー・ヘイスティングズ・シリーズに近い。つまり,主人公の独白が多く,しか…

『ブラックサマーの殺人』M・W・クレイヴン,東野さやか訳,ハヤカワ・ミステリ文庫,2019,2021ーーミステリ的にやられた感をもちました

もう夜も遅くなってしまって眠いのたけど,書くのを明日に後回しすると,面倒くさくなってしまって,結局は書かない,ということばかり続いているので,本書は結構いい作品だから,さっと記しておきます。 解説によると,本書は作者のM・W・クレイヴンの第…

『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ,山田蘭訳,創元推理文庫,2017,2019

歳をとったせいなのか,だんだん小説が読めなくなってきました。小説だけでなく,ビジネス書,実用書,人文書など活字全般を読む気力がなくなってきました。加えて社会問題にも興味をもてなくなってしまい,これが人生の終盤に入ったことなのか,と日々落胆…

『デルタの羊』塩田武士,KADOKAWA,2020ーーアクシデントに翻弄されるアニメ業界

作者の塩田氏は,私にとって,いつの間にかデビューしていつの間にかベストセラー作家になってしまって,映画化などあったにもかかわらず,今まで手に取る機会がなかった作家。本書はネットインタビューでアニメ業界を舞台にした作品だということで,トリガ…

『ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる』東 浩紀,中公新書ラクレ,2020ーー組織を運営するには身体性がなくてはならない

『ゲンロン』という雑誌は知っていて,書店で手に取って「難しくてわからん」といったままで,本書の署名やインタビューから,てっきり出版社盛衰記だと思っていたけど,まったく違く内容だったにもかかわらず,一気に読むことができて,非常に面白かった。…